2007/06/12

ソーシャルブックマークが検索結果に及ぼす影響

きょうは別の話題を書こうと思ってたんだけど、『Yahoo! 検索スタッフブログ』におもしろい記事が載っていたので、そのネタで。「Yahoo!検索結果にブックマーク登録人数表示を開始!」という記事。

4 月の半ばに『Yahoo! ブックマーク』が大幅にリニュアールされた。リニューアルというよりは、過去の資産を利用した新しいプロダクトだと言える。そもそもの『Yahoo! ブックマーク』は、シンプルなオンラインブックマークサービス。自分のお気に入りのページをブラウザのブックマーク機能を使って、自分の PC に蓄積するのではなく、Yahoo! ID にひもづけて、Yahoo! のサーバに置いておきましょう……というもの。そうすることによって、会社でブックマークしたページを『Yahoo! ブックマーク』経由で自宅の PC でもブックマークとして利用できる……というパーソナルな用途に特化したサービスだった。数多くのユーザが、自分の利便性のためにいろいろなページをブックマークしていた。新『Yahoo! ブックマーク』は、そうしたパーソナルな利用法も残しつつ、ソーシャルブックマークとしての新境地にいたった。ソーシャルプロダクトに転身することで、ユーザ間で共有(share)することができるようになった。その際に過去の資産(ソーシャル化する前のパーソナルな大量のブックマーク)を一気に獲得するに至る。

実はこの段階では、まださほどのインパクトは感じていなかった。逆にパーソナルな資産をいきなりソーシャルなものにしちゃうってのはどうなんだろう……と懐疑的でさえあった。ソーシャルブックマークは、どんなユーザがどんなアンテナを張っているのかが伺い知れるところが醍醐味だったりするわけ。だけど、この時点の『Yahoo! ブックマーク』は、当然のことながら非公開ブックマークの山。ユーザとのコンセンサスがない以上、ブックマークを個人とひもづけて公開するわけにはいかない。とはいえ、登録者数は把握できる。ここのところが肝心なところで、これをどう活用するのかな……いや、これをいつ検索結果に反映するのかな……そこが最大の関心事だった。で、きょうのリリース。

実際に目にしてみるとけっこうなインパクト。例えば、「国内旅行」でウェブ検索をしてみる。現時点での 5 位までの検索結果は、以下のとおり。

  1. じゃらんnetホームページ
  2. JTB 国内旅行 [国内ツアー | 旅館・ホテル | 割引チケット | 高速バス]
  3. H.I.S.国内旅行(東京発) - 格安航空券・ツアー・宿泊予約
  4. 国内旅行・国内ツアー - スカイゲート - 国内航空券・国内旅行・高速 ...
  5. エイチ・アイ・エスホームページ
各検索結果の最後のあたり(URL の後ろ)に「○○人が登録」と地味に書いてある。この数字を先の検索結果と並べて記載してみる。
  1. じゃらんnetホームページ:9996 人が登録
  2. JTB 国内旅行 [国内ツアー | 旅館・ホテル | 割引チケット | 高速バス]:100 人が登録
  3. H.I.S.国内旅行(東京発) - 格安航空券・ツアー・宿泊予約:32 人が登録
  4. 国内旅行・国内ツアー - スカイゲート - 国内航空券・国内旅行・高速 ...:23 人が登録
  5. エイチ・アイ・エスホームページ:4025 人が登録
こうやって登録者数をフィーチャーしてみるとなかなかおもしろい。100 人が興味を持っている 2 位、32 人が興味を持っている 3 位、23 人が興味を持っている 4 位……これらが 4025 人のブックマークを獲得している 5 位と比較してどちらがより多くの顧客の誘導を実現できるか……ここのところが非常に興味深い。おそらく多くのユーザは、ここに数字が書いてあることに気づきもしないかもしれない。しかし、これ、気にしだすと、けっこう気になってくるから不思議。ブックマーク数が 0 の場合には、「0 人が登録」とは書かれず、何も表示されることはない。しかし、その数字がたとえ 1 や 2 であっても、何も書かれていないよりはなんかご利益があるように思えてくる。

そうなると、SEO 業者は着目すること間違いなし。「弊社の SEO 対策は、いま話題の SMO 対策も同時におこないますので、御社へのトラフィック誘導も成功しますよ」なんてセールストークをいまごろ練っているに違いない。明日には企画書に盛り込まれるかもしれない。SMO 対策オプションの料金表を作っているかもしれない。そうなってくると、発生しそうなのがアビューズ。とにかく大量のアカウントでクライアントのページをブックマークしまくるとかね。もちろん数多ある SEO 業者がみんなそんなことをするとは思わないけど、必ずいくつかは現れる。そういうアビューズが横行すると、ブックマークサービスの価値の低下が起こる。それは、Yahoo! JAPAN としては望むことではないはずだから、何らかの対応策が取られることになる(何らかの対抗策はもう仕込んであるかもしれない)。怪しげな SEO 業者と Yahoo! JAPAN のいたちごっこなんてこともありうる。さて、どんなことが起こるのかとても楽しみ。

実際、既にいろんな人たちが、いろいろ考えはじめている。現時点での『Yahoo! 検索スタッフブログ』の「Yahoo!検索結果にブックマーク登録人数表示を開始!」へのトラックバックは、12。Yahoo! ブックマークがリニューアルされたときのエントリへのトラックバックが 3 であることと比較しても、本件がどれほど人の興味を引く話題であるのかは明白。『Yahoo! ブログ検索』でチェックすると、こんな感じ。「このブックマーク登録数の結果がランキングに影響を与えるのか?」といった憶測も。SEO 業界の有名人のアイレップ・渡辺氏なんかは、極めて冷静。ある意味、懐疑的だともとれるコメント。

とはいえ、個人的にはけっこうオプティミスティック。ブックマーク資産の起源がパーソナルであろうが、ソーシャルであろうが、なんらかの意味があってユーザはブックマークしているはず。これって、Google の PageRank テクノロジーの根幹であるページ間のリンクと思想的にはかなり近い。人気度のひとつの尺度としては成立しうると考える。強いて言えば、ソーシャルブックマーク的な要素がブーストされるともっと有益なリソースになりうるなあ……とも感じる。良質なブックマークを数多く蓄積しているユーザが、PageRank 的な考え方で言えば、良質なサイト……と読み替えることもできるだろう。そうした処理ができるようになれば、シンプルな登録者数ではなく、ブラックボックスな数値に換算され、ランキング決定のためのパラメータとして利用される……なんていう発展的な成長がありそうな気がする。

素人目にもいろいろリスクのありそうな施策なわけだけど、そのリスクを乗り越えてプロダクトとして醸成されてくることだろう。当面は、ブックマーク登録数がランキングに影響を与えるところまではいかない……というのが読み。いまのところは、SEO の施策の一環として、もっと SMO のことを考えましょうね……という契機としてはいいんじゃないかな。さてさて、次に何が出てくるか……。

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