2007/05/19

Roland Barthes と Web 2.0

Tim O'ReilleyTim O'Reilly の提言した Web 2.0 というムーブメントがあるが、いくつかあるそのキーコンセプトのうち、Data is the Next Intel InsideLight Weight Programming Models あたりで語られることを考えるにつけ、想起される人物がいる。20世紀のフランスの記号学者、Roland Barthes(ロラン・バルト > cf. Wikipedia JA)だ。彼の著作に The Death of the Author(『作者の死』> cf. Wikipedia EN)なるエッセイがある。文芸批評理論のコンテクスト下で書かれたものではあるが、現在の Web 2.0 のキーコンセプトに非常に近いものを感させる。その中で語られているコンセプトが、Wikipedia にうまくまとめてあったのでそのまま紹介しよう(Wikipedia JA「作者」より)。

文芸評論理論において、「作者」は、テキストの意味とその作者の意図の関係を巡る問題においての重要概念である。1968年に発表した評論「作者の死」において、ロラン・バルトはあるテキストの作者がそのテキストにおいて何を意味させようと意図したかは、そのテキストの解釈において重要ではないと説いた。この理論によると、テキストは作者一人の声のみにより構成されるのではなく、むしろ外部の影響、無意識的衝動、その他の既存のテキストなども含む、そのテキストとのコミュニケーションを形成する様々な要因によるものだとされる。それゆえ批評家は、テキストをその解釈を一意的に決定する作者の言明にとらわれない「自由な戯れ」の空間として扱うべきであり、テキストとのふれ合いはそれ自体が性交にも通じる快楽であると主張した。凝り固まった教訓的な形式主義の枷から解き放たれて、バルトはテキスト読解の芳醇な不完全さと創造的書き換えの可能性を示唆したのである。

Roland Barthesこの記述に出現するいくつかのキーワードを以下のように置換してみたらどうだろう。
  • 文芸評論理論 → 現代のインターネットをめぐる環境
  • 1968年 → 2005年
  • 「作者の死」 → What Is Web 2.0
  • 文芸評論理論 → Web 2.0
  • 作者 → データ作成者
  • テキスト → データ
  • ロラン・バルト → Tim O'Reilley
まさに Web 2.0 のキーコンセプトを説明するものになる。Roland Barthes が「作品」を「作者」から奪い、読者に委ねる「テキスト」に変質させた。その40年後に Tim O'Reilley が、計算機やインターネットの普及にともない、データ作成者側の意図により集積され、提供される情報は、いまや独占的に使われるものではなく、インターネットや HTTP プロトコル、Web API、XMLなどを媒介に「自由な戯れ」を提言するにいたったわけだ。

Ferdinand de SaussureFerdinand de Saussure(フェルディナン・ド・ソシュール > cf. Wikipedia JA)のアイディアを借りれば、
  • signifié としてのデータ(実体)
  • signifiant としての mash up(表現)
……という構図も考えられるかもしれない。言語における記号論的考察だと、

 日本語で「海」と表現される事物(signifié)
  ├ 海(signifiant)
  ├ 綿津見(signifiant)
  ├ sea(signifiant)
  └ ……

このように signifié と signifiant の関係は、1 : N の関係になることが多いように思われるが、mash up の場合は、素材となる実体の signifié は複数、開発者も複数だとすれば、mash up における signifié と signifiant の関係は N : N の関係になり、無数の組み合わせの「自由な戯れ」がインターネット上で展開されることになる。

疎結合したデータ(signifié)は、新たな表現(signifiant)を産み、その利用および価値判断は「読者」たるユーザに委任される。

おもしろい時代になってきたなあ。Web 2.0 の胎動の兆しもなかったころ、Amazon の書籍データほしいなあ……とか思ってたのが懐かしく感じられる。。。

Tim O'Reilly の What Is Web 2.0 - Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software は、以下のページで日本語で読むことができる。
※写真は、Wikipedia より拝借。しかし、本家 Wikipedia の記述は、クオリティが高いなあ。日本もがんばらないと。。。

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